認知症専門病院「和光病院」で院長を務める今井幸充さん。前編では、認知症に特化した取り組みについてお話を伺いました。後編では、長きに渡り研究を続ける今井さんの想いや認知症との向き合い方について伺いました。
40年前、「認知症」という言葉はなかった
1980年から認知症に関する研究を行ってきた今井さん。40年以上前の当時、社会にとって認知症とはどのようなものだったのでしょうか。
「『認知症』という言葉もなかった時代です。認知症のような状態になると、ご家族はそのことを隠すべきものとしていた印象があります。訪問したある家では、座敷牢(仕切りや施錠により、中の人が出られなくなるもの)を見たこともあります。他にも、養老院や老人病院といった、周囲の目が届かない場所に預けるということも多々ありました。」
“介護”ではなく、”隔離”だった当時。これらは「なぜこうなったか、どうすればいいのか」分からなかったことが理由なのではと、今井さんは言います。
「分からない」の探求が、未来をつくる
1983年6月、聖マリアンナ医科大学精神病院で研究を行っていた今井さんは、日本で初めて認知症の人のためのデイケアを開設します。そこには、共に研究をしていた長谷川和夫さん(聖マリアンナ医科大学名誉教授・認知症医療の第一人者)との秘話があったそうです。
「『あなたは認知症の人の気持ちが分かるか?』と長谷川先生がわたしに聞きました。わたしは考えに考えましたが、分からなかった。正直にそう答えると、長谷川先生は『そうだよな。俺にも分からない』と。それから長谷川先生の提案で、認知症の人と直接触れ合い、少しでも理解を深めようと、現在のデイケアの原型となるサービスを展開することにしました。」
“分からないを探求する”これが今井さんの研究者としての自負なのでしょう。
今井さんは、研究者としての立場だけでなく、スタッフとしても認知症の人やそのご家族と日々触れ合っていきました。そうした日々の取り組みの積み重ねが、現在の認知症の理解へと繋がっています。
介護の難しさを「愛情が足りないから」と悩まないで
研究やデイケアでの活動の他、ご自身も介護経験がある今井さん。そんな今井さんだからこそ導き出した「答え」があります。
「介護をしていると、難しいことや苦しいことはあります。その時『自分には愛情が足りないのだろうか』と思わないでください。介護の『できる・できない』に愛情の『ある・なし』は関係ありません。愛情があっても介護が難しい人もいます。極端に言えば、愛情がなくてもプロなら介護ができます。だからこそ、どうか自分を疑ったり抱え込んだりせずに、プロの手を借りてください。あなたは寄り添うだけでも、大切な存在です。」
認知症は特別なものではない
最後に今井さんへ「認知症についてもっと知って欲しいこと」について伺いました。
「認知症は、誰にでもなる可能性があります。コモンディジーズ(日常的に遭遇する疾患)とも言えるでしょう。あなた自身や大切な人がなることも十分にありえます。だからこそ、特別ではない身近なものとして、いざという時は抱え込まず、プロの手など頼れるものには気軽に頼ってください。」
生23-1079,商品開発G