大学生が焼き芋やモルックで地域交流。多様化する認知症カフェ【後編】

大学生が焼き芋やモルックで地域交流。多様化する認知症カフェ【後編】

大阪府茨木市にある追手門(おうてもん)学院大学の大学生が、2020年より開催している認知症カフェ。認知症の当事者や家族だけでなく、地域の人々が交流する場として毎月大学内や大学周辺で開催されています。3年間どのようなカフェを企画・実施してきたのか、認知症カフェを開催する地域創造学部の岩渕亜希子准教授と、岩渕ゼミの皆さんにお話を伺いました。

学生のアイデアを活かして毎月のカフェを企画

「学生同士で話し合って、風鈴やクリスマスツリーを作るなど季節感のあるカフェになるように工夫しています。昨年末は外で焼き芋を焼いて皆さんと食べました。」
そう教えてくれたのは、岩渕ゼミ4年生の塩谷さん。毎月のカフェが楽しめるものになるよう、学生自身が企画を出し合い、進めていきます。次はどんな内容になるのかを楽しみに、常連で訪れる高齢者の方も増えてきました。
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塩谷さんのチームでは、大学の外で認知症カフェを開催する「旅カフェ」を企画し、万博記念公園への遠足や閉店したカフェを使ったクッキングイベントなどを実現。新しい場所で開催することで、大学生と一緒に出かけることを楽しみにする常連の方も、新たに関心を持って参加する方もいるのだといいます。
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木製の棒を倒して遊ぶ「モルック」の軽量小型版「ミニらいとモルック®︎」を取り入れたイベントでは大学生から80代の方まで20名以上が参加。モルックは地域交流に適していると実感した地域の人たちにより、モルック大会が開かれるきっかけにもなりました。
4年生の清水さんが企画に携わったのは、地域のお寺での寺カフェやオリジナルインクペンづくりイベント。
「5色のインクの中から自分の好きな色を組み合わせてインクペンを作るイベントで、大学近くの大型ショッピングモールや公民館で開催してきました。毎回小さいお子さんも楽しんで参加していただき、多世代交流を行うことができています。」
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こうした学生のアイデアを活かした認知症カフェづくりについて、岩渕准教授は「多様性」が重要であると言います。
「認知症の方や高齢者、地域の方にとって、同じようなカフェばかりあっても、自分にはこういう場は合わないと感じる方もいるかもしれません。地域のカフェに選択肢があること、多様性があることが非常に重要だと考えています。“あっちのカフェは合わないけれど、こっちのカフェは合う”という人もきっといる。ですから、学生の新しいアイデアはできるだけ大事にしたいなと思っています。」

大学が認知症カフェを開催する意義とは

認知症カフェに訪れるのは認知症の方、高齢者の方だけではありません。大学の近隣に住んでおり、以前から学生と話してみたかったという方々が、初めて大学に訪れる機会にもなりました。三角形の現代的かつ特徴的な建築である茨木総持寺キャンパスが気になっていたという方は多いようです。
「大学が地域の資源になるためには、地域の方々と顔が見える関係性を築くことが第一に重要です。大学を遠巻きに見ていて、入ったこともなく、入ることができることも知らなかったという状態では、資源になりようがありません。認知症カフェは学生と地域の方々が知り合う良いきっかけになりました。」
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またコロナ禍でも感染リスクを警戒せざるをえない福祉施設や市の施設が開催する認知症カフェより早く再開できたこと、新キャンパスで換気もしやすいことなど、大学で認知症カフェを開催するメリットは多く挙げられます。
「若い人たちが開催するからこそ、他のカフェとは異なる経験ができると期待していただいている方もいます。」
その結果は、前述したアイデア溢れるカフェの内容を見れば、一目瞭然といえます。高齢社会や福祉のまちづくりを専門とする岩渕准教授によれば、認知症カフェは地域に1箇所ではなく、歩いていける距離に複数、異なるタイプの認知症カフェがあること、個人の合うところを選べることが理想だと言います。
「自分には合わない認知症カフェに、毎週通い続けるのは難しい。選択肢が1箇所しかないと、なかなか足が向かない人もいます。また私たちは月に1回の開催ですが、複数箇所が月に1回ずつ開催したら、認知症の方や地域の方は週に1回どこかの認知症カフェに行くことができます。地域と連携することで、多様な認知症カフェの1つとして、過ごす場所を確保する体制づくりの一端を担えたらと考えています。」

大学生・認知症当事者・地域はどう関わり合うべきか

地域の課題に大学生が積極的に携わる追手門学院大学の事例は、今後の高齢社会に新たな兆しを見せてくれています。
実際にカフェを通して認知症の当事者や家族と話してきた岩渕ゼミ4年生の藤田さんは、「少子高齢化が進み、認知症の方々の割合は増えていくと思います。でも認知症になったらもう駄目だと悲観的にならず、認知症カフェのように大学生や地域と楽しく交流できる場があることを知ってもらいたい。若い人たちが積極的にそういうカフェに取り組んでいくべきだと感じる。」と想いを語りました。
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認知症には大変なこともある、でも常にずっと大変なわけじゃない。そう岩渕准教授は語ります。
「認知症には初期から重度まで段階があって、初期のうちにその人に合う楽しみや繋がり、サポートを得られる環境で暮らしていければ、病院や施設に入らずに住み慣れた地域で暮らせる時期が長くなります。それは誰かが特別な知識でいろいろなサポートをしなければ実現しないことではなく、私達が地域の隣人として少し寄り添ったり、ちょっと手を貸したりするということで支えられます。相手は助けてあげなくてはならない人ではなく、一緒に地域で生きていく人なのだということを若い人たちにも知ってもらえると、未来の見え方が変わるのではないでしょうか。」
生23-4634,商品開発G
岩渕亜希子さん

岩渕亜希子さん

文=齋藤優里花(under→stand Inc.)

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