大学生が焼き芋やモルックで地域交流。多様化する認知症カフェ【前編】

大学生が焼き芋やモルックで地域交流。多様化する認知症カフェ【前編】

認知症本人やその家族、地域住民、介護・福祉関係者が気軽に集い、喫茶店やカフェのように自由に過ごせる、認知症カフェ。オレンジカフェ等の名称で全国に6,000箇所ほど設置され、地域住民や医療機関、市区町村などが運営を行っています。
大阪府茨木市にある追手門(おうてもん)学院大学では、2020年より地域創造学部の学生が認知症カフェを開催。医療・福祉を専門としない学生が開催するのは珍しいケースです。同学部の岩渕亜希子准教授と、岩渕ゼミの皆さんにお話を伺いました。

大学を地域の資源に

食農や地域政策、観光、地域におけるユニバーサルデザインなど多様な視点から地域の社会課題に向き合う追手門学院大学の地域創造学部。社会学を専門とする岩渕亜希子准教授のゼミでは、「福祉のまちづくり」をテーマに研究を行っており、地域コミュニティに関心のある学生が集まっています。
「地元の教育機関である小学校などは校庭開放のように地域に開かれていますが、大学はそうした機会が多くありません。地域創造学部では、地域でのフィールドワークを重要視しており、学生が地域の現場で学ぶ機会が多いなか、地域で一方的にお世話になるのではなく、大学も開かれるべきではないかと感じたことが、認知症カフェを開催しようと考えたきっかけのひとつでした。」
更に岩渕准教授は、高齢社会が進行していく中で在宅での生活の継続を目指すためにも、これまで福祉の文脈では使用されてこなかった地域の資源を活用する必要があると感じ、大学を地域の資源の1つにできないかと考えました。
また、2019年に追手門学院大学が新しく茨木総持寺(そうじじ)キャンパスを開設、地域創造学部も移転したことも契機となりました。以前のキャンパスは駅からバスで30分ほどの距離でしたが、新キャンパスはJR総持寺駅から徒歩約10分と好アクセス。物理的にも地域に近づいたのです。

大学生の手によって認知症カフェが開かれるまで

地域創造学部は福祉の専門ではなく、認知症カフェの存在も知らなかった学生がほとんどです。2020年当時、岩渕准教授はオンライン授業の中でゼミの活動の一環として認知症カフェの開催を提案しました。提案に対して18名の学生が「どんなものかよく分からないが、面白そうだしやってみてもいい」と回答し、開催への準備を進めることになりました。
「学生たちと、全国の認知症カフェの取材動画を見て、“気軽に、気楽にお話しできる空間が良いよね”と話し合い、取り入れたい要素をまとめていきました。」
初回開催時はコロナ禍で飲食の提供は困難でしたが、唯一提供が可能とされたペットボトルコーヒーや紅茶のテイスティングを行うなどして、準備を進めていったと言います。

「若い学生と話せるのが楽しい」

そして2020年11月に「ふらっとカフェ追大」が追手門学院大学・茨木総持寺キャンパスにて開催され、第1回・第2回でのべ51名が参加されました。
「コロナ禍でさまざまな施設が閉まってしまい、遊びに行く場所がなかった時期での開催だったので、多くの地域の方が様子を見に来てくれました。また新しい認知症カフェの開催ということで、専門職の方々も関心を持って来ていただきました。」
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訪れた方々からは「若い学生と話せるのが楽しい」「若い人と普段話す機会がなかった」という声が多く挙がったと言います。来場した高齢者の方と大学生が一緒にギターの演奏を行うなど、世代を超えて交流が生まれる場所となりました。
また、地域の各施設の認知症担当者同士の繋がりの場としても活用されています。
「役所や施設にはさまざまな職員がおり、全員が認知症政策や認知症の方のお世話に携わっているわけではありません。そうすると、認知症の方の支援やケアに関して踏み込んで考えたり相談できたりする相手がいつも身近にいるとは限らないんですね。一方、認知症カフェにいる専門職は認知症関係の人ばかりなので、ぐっと話がしやすくなる。ですから、専門職の方がカフェで会ってそのまま打合せになったり、情報交換をされていたりすることもあります。」
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学生にとっても多世代交流の場に

一方、学生にとっても地域の高齢者の方との交流は、楽しみとなっているようです。
「自分たちの話に興味を持って聞いてくださり、心を開いて色々とお話ししてもらえるのが嬉しいです。授業でどんなことを学んでいるのか、どんなアルバイトをしているのかなど、大学生活について聞かれたり、参加者の方が大学生だった当時はどんな生活だったのかをお話ししてくれたりすることもあります。」
そう教えてくれたのは、岩渕ゼミで「ふらっとカフェ追大」の企画に携わる藤田さん。実際にカフェに参加することで、「この場を守っていきたい、普及させていきたい」という想いが生まれたと言います。
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「祖母が認知症で、支える家族の大変さを知っていたので、同じ悩みを抱える人と話し合える場所があるというのは凄く良いと感じました。」
同じく岩渕ゼミの塩谷さんは、周囲に相談しにくく、閉鎖的になりやすい介護者の繋がりの場としても、認知症カフェの重要性を実感したと話します。

年に10回の認知症カフェを開催

岩渕ゼミでは現在、月に1回、年10回と定期的に認知症カフェを開催しています。開催費用の大半は学部からの助成となっていますが、予算と企画を各月の担当チームが検討し、年度初めに大まかな企画を立てます。
2023年は大学のキャンパス内での開催に限らず、大学外の地域施設と連携した「旅カフェ」の開催も積極的に行われています。チラシの制作や広報活動はゼミ内の広報チームを中心に運営されています。
「大学の向かいにある大型ショッピングモールの掲示板にチラシを貼らせていただいたり、SNSで告知したりと、認知症の方に特化して広報をしているわけではありません。様々な地域の方が来てくださる一方で、認知症の方々に私たちの取り組みをどう知っていただくかというのは、今後の課題の1つとなっています。」(岩渕准教授)
3年生と4年生が学年を超えて連携し運営していく必要がある中で、報告・連絡・相談の重要性を実感するなど、学びと改善を繰り返しながらゼミ内で引き継がれていく認知症カフェ。4年生の清水さんは次のように語りました。
「認知症カフェは認知症の進行や孤独死の抑制に繋がると思います。茨木市内、大学周辺での認知度をより広げていきたいです。また、多世代が交流できる場所にしていくためには、若い世代の人たちにも知ってもらうことが必要です。LINEやInstagramなど、SNSでの広報も強化していきたいです。」
後編では、学生の視点で企画された認知症カフェでの多様な試みについてご紹介します。
生23-4633,商品開発G
岩渕亜希子さん

岩渕亜希子さん

文=齋藤優里花(under→stand Inc.)

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