「認知症の本人として、社会へ発信をしたい」 厚生労働省、認知症本人大使“希望大使”藤田さんの想い【前編】

「認知症の本人として、社会へ発信をしたい」 厚生労働省、認知症本人大使“希望大使”藤田さんの想い【前編】

2020年1月、厚生労働省が認知症の人本人が普及啓発を行う、認知症本人大使「希望大使※1」を任命する等、認知症の人の声を活動に反映しようという動きが広がっています。

今回ご紹介するのは、「希望大使」の一人として任命された藤田和子さん。45歳のときに若年性アルツハイマー病と診断され、現在「日本認知症本人ワーキンググループ※2」代表理事を務める藤田さんから、本人としての経験や気づきについて、お話を伺いました。

“認知症は介護だけの問題ではない”という思い

藤田さんは、認知症のあった義母の介護、アルツハイマー病の実母の暮らしを支えた経験をお持ちです。介護を始めた1990年代、世間の認知症への理解は、現在とは大きく異なっていたようです。

「現在は知られてきていますが、認知症はアルツハイマー病や脳血管障害等、何かしらの原因があって発症するものです。私が義母の介護をしていた頃は特に、一般の人にはそのような知識がほとんど無く、多くの人たちは、『歳を取るとなるもの』『仕方のない、どうしようもないこと』『人としてお終い』と捉えていました。」

PTAの活動をきっかけに人権問題に取り組んでいた藤田さん。認知症の問題を「介護の問題、高齢者の問題」と考える風潮に違和感があったと言います。
“認知症になった人の人権の問題として考えてほしい。その人にとって当たりまえの暮らしが続けられるためにどうしたらよいか?” それが藤田さんの想いでした。

「例えば、お風呂に入るのを嫌がった時、『入りなさい』と言うのではなく、『どうして入りたくないか』を一緒に考えるようにしていました。すると『手伝ってもらうのが申し訳ない』『できなくなった姿を見せたくない』等、本人の本当の気持ちや意思を感じとることができたんです。」

本人の気持ちや意思を確認することで、本人が求めている暮らし方がわかってくる。お互いに理解し合い、どうすればよいのかを一緒に考えることこそが「認知症である人と共に生活する」上で大切なのではないか。
そういった、介護やサポートを通して感じた想いが、現在の藤田さんの活動につながっているのかもしれません。

45歳で自身が認知症と診断を受ける。受診のキッカケは“朝食べたゼリーが思い出せなかった”

義母を看取った後、仕事を再開した藤田さん。家事、仕事、実家のサポート等で忙しい中、時々「おかしいな」と思うことが起こるようになります。

「約束の時間を忘れたり、部活に行く娘を玄関で見送ったことを忘れたり。それ以外にも不眠になることや頭痛を起こす等、日々違和感や疲れと共に生活をしていました。」

認知症であっても、自分の身に起きた違和感を取り繕ったり、誤魔化したりしながら暮らすことはできると藤田さんは言います。それでも、日々続いていた違和感は、ほんの小さな出来事によって、確信に変わっていきました。

「ある日、朝食べたコーヒーゼリーのことを娘に言われても思い出せなかったんです。」

以前から藤田さんの不調に気づいていた長女の助言もあり、診断を受けることになりました。

「私の場合は、自分の身に起きていることを知りたいと考えたことが、自ら受診することへと繋がりました。しかし多くの場合は、病気に対する恐怖感が先立ち、自分が感じている違和感を放置することで気づかないうちに進行していることが多くあるように思います。」

信頼できる周囲との関係性があることや、違和感を感じた時にためらいなく受診しやすい環境が、早期発見へつながるキーになるのかもしれません。

大事だったのは、隠さずに認知症と向き合うこと

そして45歳にして若年性アルツハイマー病と診断された藤田さん。診断当時の想いについて伺いました。

「将来の不安ももちろんありましたが、不調や違和感の原因が分かったことでホッとしたという気持ちが大きかったです。そして何より、自分自身が認知症であることを隠さず、『認知症問題』が社会にとって課題と考え、活動を始めたことで、認知症と共に生きる決心ができたように思います。」

不調や不安を一人で抱え込むことなく、家族や周囲の仲間と共に、さまざまな工夫をしながら生活することができたそうです。

何よりも励みになったことは、“家族や周囲の方の多くが今まで通りの私として、接してくれたこと”だと藤田さんは言います。
▲自宅にて愛犬と共に笑顔を見せる藤田さん

▲自宅にて愛犬と共に笑顔を見せる藤田さん

認知症と共に、“わたしらしい”生活を

認知症と共に生活する中で、藤田さんの想いも変化していきます。それは人権問題に関わっていた藤田さんだからこそのものでした。

「認知症の本人の声が世の中に出ていないということに気づいた時、認知症について“自分が本人として発信する”ことの必要性を強く感じました。」

それから藤田さんは、当時の『日本認知症ワーキンググループ※3』立ち上げに参画する等、積極的な活動を始めていきます。

現在は、「日本認知症本人ワーキンググループ」代表理事、「希望大使」の立場としての活動及び地元鳥取市でのさまざまな認知症に関する事業等に精力的に取り組んでいます。

後編ではその活動・そして藤田さんが目指す認知症を取り巻く環境について、お話を伺います。
※1:厚生労働省 認知症本人大使「希望大使」公式詳細ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou.html

※2:「認知症とともに生きる人が、希望と尊厳をもって暮らし続けることができ、社会の一員としてさまざまな社会領域に参画・活動することを通じて、よりよい社会をつくりだしていくこと」を目的とした活動を行う一般社団法人。
日本認知症本人ワーキンググループ 公式ホームページ
http://www.jdwg.org/

※3:「一般社団法人 日本認知症本人ワーキンググループ 」の前身となる団体。
生20-4709,商品開発G
藤田和子さん

藤田和子さん

文=北浦勝大(under→stand Inc.)

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