「認知症の本人として、社会へ発信を続ける」 厚生労働省、認知症本人大使“希望大使”藤田さんの想い【後編】

「認知症の本人として、社会へ発信を続ける」 厚生労働省、認知症本人大使“希望大使”藤田さんの想い【後編】

認知症の本人として、認知症に関する普及啓発を行っている藤田和子さん。
前編では認知症の本人としての経験や気づきについてお伺いしました。後編では、「希望大使」や「日本認知症本人ワーキンググループ」での活動・藤田さんが目指す認知症の人を取り巻く社会環境について、ご紹介します。
前編はこちら

認知症本人大使「希望大使」は、社会変革への大きな一歩

2019年6月に厚生労働省がとりまとめた認知症施策推進大綱※1では、「普及啓発・本人発信支援」を認知症施策の柱の一つとして掲げています。
それに伴い厚生労働省では、認知症の人本人からの発信機会が増えるよう、認知症本人の方々が認知症に関する普及啓発を行う、認知症本人大使「希望大使」を任命しました。

まずは本人の声の重要性が認められたことに、大きな手応えを感じたという藤田さん。これまで以上に、全国各地で本人の声をもとにした取り組みが推進されていくことに期待をしています。
▲認知症本人大使「希望大使」任命イベントの様子

▲認知症本人大使「希望大使」任命イベントの様子

従来の認知症への認識に対する挑戦

「講演を行う中で『認知症の本人への支援は必要なんですか?』という声をいただいたことがあります。」

昨今関心や理解が広がっているように感じる認知症ですが、実態としてはまだ十分ではないようです。その理由の一つとして、“必要なのは介護家族への支援”という先入観があり、認知症の人がよりよく暮らすことを支える仕組みや人が必要という認識が根付いていないからだと、藤田さんは言います。

「認知症の人=何もできない人、というのは誤った理解です。本人自身の工夫や、周囲の理解と協力を得ることで、自分らしい日常生活を送ることや、働き続けることが可能な人も多くいます。正しい理解を広めるためにも、『認知症の本人の声』が重要だと考えています。本人の発信があってこそ、社会における認知症の正しい理解が生まれるのです。」

目指すのは、認知症になっても安心して暮らせる社会

主に地元鳥取県にて活動を行っている藤田さん。

「“どうすれば自分らしい生き方ができるか”を近隣の人たちと話しあう『認知症になってからも自分らしい生き方を考えるサロン』、“暮らしやすい地域”をつくるために認知症の本人同士が話し合う『本人ミーティング』や、藤田さん自らが本人相談役として認知症の人の暮らしのアドバイスをする『おれんじドアとっとり』の開催、市の認知症施策に関する委員会への参画等、認知症の本人としてできることに、日々取り組んでいます。」

藤田さんが目指すのは、認知症になっても安心して暮らせる社会です。

「認知症への正しい理解はもちろん必要です。その上で、認知症になってからも、自分にとって大切な生活や、仕事や趣味ができる限り継続できる環境を作り出せることこそが、理想とする社会だと思っています。」
▲衆議院議員会館で行われた「認知症基本法について考える...

▲衆議院議員会館で行われた「認知症基本法について考える院内集会」にて発言する藤田さん

周囲の理解があってこそ、一人の自分として前向きに生きていける

最後に、藤田さんへ「認知症についてもっと知ってもらいたいこと」を伺いました。

「何より知ってもらいたいことは、認知症になっても、その人本人であることに変わりはないということ。認知症になると、今までの自分との違いを感じて落ち込んでしまうこともあります。でも一人の人間として、前向きに道を切り開いていく力もあるのです。道を切り開く中では、一緒に考え伴走してくれる人がいることが、その人にとって何よりの力になります。」

本人の立場から、今後も可能な限り活動を続けたいという藤田さん。
認知症になっても変わらぬ一人の“わたし”として、暮らすことのできる社会の実現を目指していきます。
※1:厚生労働省 公式ホームページ「認知症施策推進大綱について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00002.html
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藤田和子さん

藤田和子さん

文=北浦勝大(under→stand Inc.)

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