丹野智文 認知症と生きる③

丹野智文 認知症と生きる③

おはよう21 2016年2月号
日本認知症ワーキンググループ/ おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
違和感、そして検査入院
自分に起きている異変は、フォルクスワーゲンの販売店での仕事のなかで感じ始めました。2009年頃のことです。

小さな違和感

最初は、「最近、もの忘れが多くなったな」と思っていました。年末にカレンダーを渡しにいくとき、車の中でお客さんの部屋番号を確認するのですが、マンションに入ると、番号がわからなくなって、玄関と車を何往復もしたことがありました。それで、最後は紙に書いて玄関まで持っていくようにしていました。
その他にも、忘れないようにメモを付箋に書いてパソコンに貼ったりしていました。最初は、誰かに電話するのでも「○○さんにTEL」と書いて貼っておけば、それを見て電話をすることができました。それが次第に、「○○さんにTEL」だけでは、何の用で電話するのかが思い出せなくなり、「タイヤ交換の日時の件で○○さんにTEL」と、メモする内容も増えていきました。付箋の数が増え、これではだめだと思い手帳に書き始めました。そのうち、手帳では書ききれずノートになり、そしてノートはB5からA4サイズになりました。それでも、毎日やらなければいけないことを書き、終わればチェックしたので、失敗することもなく、仕事はできていました。
営業の仕事も順調で、その頃は400人くらいのお客さんをもっていました。だから、忘れることがあっても仕方ないのかなと思っていたんです。「人よりももの覚えが悪い気がするけれど、それは多分お客さんの数が多くて大変だから」 だ……。それが病気のせいだとは思いませんでした。
もの忘れを自覚してからも、最初の3年くらいは、誰も私の異変に気づいていなかったと思います。

更なる出来事

しかし、次第に状況は悪く なっていきました。
車の営業社員は、お店の駐車場に入ってきた車のナンバーを見ただけで、「自分のお客さんの○○さんだ」とわかるものです。しかし、それがだんだんわからなくなり、そして人の顔もわからなくなってきたのです。
店内で「お客さんが来たから行ってきなさい」と部下に指示したとき、部下が戻ってきて言いました。「丹野さんのお客さんですよ」「会ったことはないよ」「昨日話していたじゃないですか」。
2013年の冬のある日、毎日一緒に働いているスタッフの顔と名前がわからなくなって、話しかけようとしても声をかけられなくなりました。
それまでの「おかしいな」ということの積み重ねもあったので、会社が休みの火曜日に近くの脳神経外科のクリニックに行くことにしました。
保険証を出してもらうため妻に「ちょっと病院に行きたいんだけど」と言うと驚かれて、「心配し過ぎじゃないの」と言っていました。でも、ストレスが原因と診断されれば、自分も納得できると思っていたのです。
クリニックを受診したのはクリスマスイブでした。何かの検査をした後、「すぐに大きな病院に行ってほしい」と言われました。そのときは認知症のことを知らなかったので、「疲れが原因のはずなのに……」と不思議な気持ちでした。
勧められた市内の脳神経疾患専門病院が年末休みに入り、結局病院に行ったのは1月になってからでした。受診の予約をしたとき、「必ず奥さんと一緒に」と言われていたので、妻と二人で行きました。その日は、「検査入院をしましょう」と言われたと思います。
病室が空くまで少し待つことになり、その間はまた仕事に行きました。入院のことも上司の店長にだけ話しました。
その間も記憶力はどんどん悪くなっていて、今考えると結構ひどい状況でした。お昼に、皆と一緒に事務の人にお弁当を頼むのですが、買ってきてもらっても自分がどれを頼んだのかわからないこともありました。

検査入院へ

病室に空きが出て、2週間ほど検査のために入院をしたのは2月下旬。自分の39歳の誕生日は病室で迎えました。
病院でたくさんの検査を受けた結果、医師に「若年性アルツハイマーの疑いがあるが、この若さでは見たことがない。判断しかねるので、ちょうど大学病院の先生が来ているから会ってくれないか」と言われました。大学病院の先生に会うと、もう一度検査するかどうかという話になり、「ここで曖昧にしても仕方ない」と思ったので、再度大学病院での検査を受けると決めました。
大学病院に入院したのは、まだ桜の蕾も硬い、3月半ばのことでした。
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丹野智文さん

丹野智文さん

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