互いに支え合える、生きがいのある地域社会へ【前編】

互いに支え合える、生きがいのある地域社会へ【前編】

2019年に国が「認知症施策推進大綱※1」をとりまとめて以降、一層、各地域の認知症への取り組みが注目されています。今回ご紹介する神奈川県では、認知症の人本人をサポートする施策とあわせて、認知症の人を支える方々の養成や地域の方々とのネットワーク作り等、幅広い取り組みを行っています※2。
神奈川県での数ある施策の中、前編では本人発信に着目した「かながわオレンジ大使」について、後編ではコロナ禍でも交流が継続できるようにと発足した「リモート認知症カフェ応援事業」について、神奈川県 高齢福祉課の宮崎さんへお話を伺いました。

本人発信による理解のある住みやすい地域へ

2021年4月神奈川県にて、認知症の人本人の発信により認知症の理解を広めることを目的とした「かながわオレンジ大使」(認知症本人大使)が発足しました。
まだ発足してから間もないですが、どのような活動を行っているのでしょうか。
「現在はコロナ禍でもできることとして、本人同士が課題や生活について話し合う”本人ミーティング”の実施や、県のホームページ※3を通じての情報発信を行っています。今後は、状況を見つつ講演会での発信やイベント参加等も行い、県民への理解を広めていきたいと考えています。」
できるだけ大使本人のやりたいことを尊重し、その活動を発信していきたいと言う宮崎さん。神奈川県が目指すのは、”誰もが自分らしく生きられる、互いに支え合える地域社会”です。

意識したのは”神奈川らしい”取り組み

「かながわオレンジ大使」の特徴の一つとして、大使の決定方法が挙げられます。
厚生労働省が実施している認知症本人大使施策「希望大使※4」では、5名の方が大使として任命されています。一方「かながわオレンジ大使」では、人数を定めず、可能な限り応募された方全員に大使を委嘱する、という運用がされているのです。
国とは異なる運用で実施している背景には、どのような経緯があったのでしょうか。
「企画にあたり、”神奈川らしいあり方”とはどうあるべきかを考えるため、地域の認知症の人本人として活動している方やそのご家族、支援者の方々から意見を伺いました。」
そこでは、多くの声をいただいたそうです。
”認知症の人それぞれに、様々な生き方がある。”
”複数人ならば活動できるかもしれない”
”これまで活動してきた人以外にもやりたい人がいるかもしれないので、公募がよい“
「いただいた意見を参考に、神奈川県では人数制限や選考を設けるのではなく、なるべく応募された方全員が活動できるように大使を任命することにしました。」
地域のあり方を決めるために、そこで暮らす人々の声を聞いて決断する。それもまさに、”神奈川らしいあり方”なのでしょう。
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▲「かながわオレンジ大使」企画運営会議の様子

▲「かながわオレンジ大使」企画運営会議の様子

多種多様の個性から理解を広める

2021年6月現在、計16名の「かながわオレンジ大使」が活動されています。
「若年性認知症と向き合いながら働いている方、施設等で楽器のボランティア演奏をされている方等、本当に様々な方がいます。自身の経験を活かしてこれから活動をしていきたい、という方も多くいます。」
このように年齢・経験・立場が異なる中でも、共通していることがある、と宮崎さんは言います。
「大使皆さんの共通の想いは、”前向きに生きられること、生きていけることを伝えたい”、”人の役に立つことがしたい”ということです。」
個性豊かな認知症の人本人たちから成る「かながわオレンジ大使」だからこそ、様々な個人の姿を通して認知症の理解を広めること、そして悩んでいる誰かの助けとなる可能性を秘めています。

コロナ禍だからこそ前向きに工夫を

大きな可能性を秘め誕生したばかりの「かながわオレンジ大使」ですが、2021年6月現在、未だ新型コロナウイルスの影響により活動の制限を強いられています。しかし宮崎さんたちは、何としてでも活動を続けていきたい、と言います。
「私たちとしても、ご応募くださった大使の皆さんの想いに応えたい、という気持ちが強くあります。もどかしい状況ですが、情報発信やオンラインでの取り組み等、できることはあるはずです。コロナ禍だからといってうつむかず、大使の皆さんとコミュニケーションを取りながら、前向きに工夫をしていきたいと思います。」
認知症の人本人の発信から、地域の理解を広めるのはもちろん、本人の生きがい作りにも手を伸ばす「かながわオレンジ大使」。宮崎さんたち、そして大使の皆さんの挑戦は続きます。
▲神奈川県 高齢福祉課 ミーティングの様子

▲神奈川県 高齢福祉課 ミーティングの様子

後編では、コロナ禍だからこそ生まれた取り組み「リモート認知症カフェ応援事業」についてご紹介します。
※1:厚生労働省 公式ホームページ『認知症施策推進大綱について』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00002.html
※2:神奈川県 公式ホームページ『かながわ認知症ポータルサイト』
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f6401/index.html
※3:神奈川県 公式ホームページ『かながわオレンジ大使(認知症本人大使)』
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f6401/orange_taishi.html
※4:厚生労働省 公式ホームページ『希望大使とは』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou.html
生21-3135,商品開発G
宮崎晃子さん

宮崎晃子さん

文=北浦勝大(under→stand Inc.)

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