丹野智文 認知症と生きる⑨

丹野智文 認知症と生きる⑨

おはよう21 2016年8月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
当事者としての発信

「実名を出しますか?」

宮城県内で初めて当事者としての講演会を行ったのは、2014年の2月のことでした。 
それから3週間後。私は認知症研究・研修センターが主催する、厚生労働省との意見交換会に参加していました。若年性認知症の人のための施策に関するもので、やはり家族の会を通して声がかかりました。
全国から6名の若年性認知症の当事者が集まり、私はその1人として、仕事を続けられる環境の重要性などについて、自身の体験を交えて発言しました。
実は、その会は事前に主催者から「実名を出しますか?」と確認されたのです。「会議なんだから、当然名前は出すものだ」と思い、「出します」と返事をしたのですが、当日の会に参加してみると、出すと答えていた当事者は私ともう1人しかいませんでした。
そして、その場に新聞社などのメディアが取材に来ていて、実名を出せる私たち2人に取材依頼が集中したのです。
しかし、メディアに出ると予想して会に参加したわけではありません。実名公表に関する気持ちは、自分のなかで固まっていませんでした。何よりも心配だったのは、私が実名を公表することで、家族が嫌な思いをしないかということでした。
なので、地元でよく読まれているような新聞社の取材は、まずお断りをしたのです。
ただ一方で、「こんなに取材をお願いされているのに、全部断るのも悪いのでは……」という思いもよぎりました。そこで、地元では読む人がそれほどいないだろうと思った一社だけ、取材を受けました。
間もなく、意見交換会の様子と私が話したことが、そのまま新聞記事になり、そしてインターネット上でも配信されました。正直なところ、「いつの間にか広まってしまった」という感じでした。
しかし、その記事の掲載後も、家族や自分の身の回りで、心配していたような悪いことは特に起きなかったのです。
新聞掲載の反響は大きく、更に県内でいくつかの講演依頼がありました。少しずつ引受けましたが、やはり私が懸念していたようなことは起こりませんでした。
そうした経験の積み重ねで、「認知症のことを公表して人前に出ても、別に悪いことはないんだな」と、何となく感じるようになっていきました。

当事者研究勉強会

通算5回目くらいの講演依頼は、「宮城の認知症ケアを考える会」からのものでした。
依頼をくださったのはいずみの杜診療所の医師・山崎英樹先生です。
山崎先生は、家族の会宮城県支部の顧問で、「宮城の認知症ケアを考える会」の中心的な存在でした。家族の会の集まりでも「いい先生だよね」とよく話題になるので、そのような先生からの依頼は断りたくないと思って引受けました。
講演会では、山崎先生だけでなく、登壇者だった森俊夫先生とも出会いました。森先生もやはり医師で、京都で認知症医療に深くかかわっている方でした。
そしてその夏、山崎先生の誘いで、私は東京と、森先生のいる京都に行くことになりました。東京での目的は、「認知症当事者研究勉強会」への参加です。

出会いと芽生え

勉強会はもう5回目だそうで、その日も全国の認知症の当事者を中心に、100人以上の関係者が集まっていました。
活発に意見を言う当事者がたくさん来ていて、鳥取の藤田和子さん(※)や神奈川の中村成信さん、静岡の佐野光孝さんなど、いろんな当事者の先輩と会いました。
インターネット上の掲示板などで、皆さんの存在は何となく知っていたのですが、特に藤田さんの話を直に聞いたとき、衝撃がありました。「人に知ってもらうことは大切なことだ」と、藤田さんは訴えていました。
「そうかもしれない……。すごい。この人は社会に発信しようとしているんだ」。
それまでの私は、講演活動についても、「お願いされたからやろうかな」というくらいの気持ちで、当事者の声を伝えなければ、というはっきりした意識はありませんでした。
藤田さんとの出会いによって、当事者として発信することの意味が、私のなかに芽生えはじめていました。
勉強会のすぐ後、今度は山崎先生たちと一緒に京都へ。2泊3日の日程のなか、私は3回も講演をしました。山崎先生からの誘い文句は「皆で京都に遊びに行こう」だったはずなのですが……(笑)。
鴨川の川床で食事をしたり、浴衣姿で講演をしたり――楽しかった京都からの帰路。またもや新幹線のなかで、山崎先生たちと話すうち、新たな活動への流れが生まれました。
それは、当事者による当事者支援「おれんじドア」です。
※藤田和子さん:2014年10月に立ち上がった日本初の認知症当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」代表理事(元記事掲載時は共同代表)
生22-213,商品開発G
丹野智文さん

丹野智文さん

関連記事

  • 血管迷走神経反射の原因と対処法

    血管迷走神経反射の原因と対処法

    血管迷走神経反射とは、何らかの刺激で迷走神経反射が起こり、血圧・心拍数が急激に低下する状態です。めまい等の影響で転倒した際に怪我をする恐れがあり、神経機能が低下している高齢者の方に起こりやすいと言われています。この記事では、血管迷走神経反射の原因と対処法について解説します。

  • 肝臓がアルコールを代謝する仕組みと摂り過ぎによる影響

    肝臓がアルコールを代謝する仕組みと摂り過...

    肝臓には、吸収した栄養を利用しやすい物質に変える・栄養を貯蔵する・必要に応じエネルギーを作り出す・不要な物質や有がい物質を解毒し排泄する等の働きがあります。また、肝臓は、アルコールの代謝【体内で行われる化学反応】にも関わっています。この記事では、肝臓がアルコールを代謝する仕組みと摂り過ぎによる影響について解説します。

  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療内容と日常生活の注意点

    COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療内容と...

    COPD(慢性閉塞性肺疾患)を発症すると、咳・痰・息切れ等の症状が現れ、進行すると少し動いただけでも息切れするようになり、呼吸不全・心不全等を引き起こし命に危険が及ぶ可能性があります。この記事では、COPDの治療内容と日常生活の注意点について解説します。