家族から見た認知症介護の物語 #3 〜これから認知症介護と向き合うために〜

家族から見た認知症介護の物語 #3 〜これから認知症介護と向き合うために〜

最後に、「認知症介護を通して感じた、ご自身の価値観や家族の変化」「必要だと思う支援やサービスの内容」「座談会に参加した感想」についてそれぞれお話を伺いました。

認知症介護に関わったことで価値観が変わったこと、家族の変化を教えてください

Aさん:
「認知症のことがわかっていなかったな、と思います。『私の頭の中の消しゴム』という、登場人物の記憶が少しずつ消えていってしまうという映画を見たことがあって、認知症も何となくそういう感じなのかなと思っていたのですが、やっぱり映画とは全然違う。実際に介護すると、そんな綺麗なことだけじゃなかったです。
それと祖母が施設に入居してから知ったのが、認知症の症状が、人によって全然違うということ。私の祖母は全然怒らず、声を荒げたりしないタイプで、認知症の症状が出ると悲しくて、『ごめんね、忘れちゃってごめんね』と泣いてしまうタイプだったんですけど、お隣の部屋の方はすごく大きい声で怒鳴り散らしたり、物を投げたりする方で。自分が介護されるようになったときに、物を投げたり大きい声で怒鳴らないような人になれるかなって、すごく心配になりました。
一方で、介護していた母への尊敬度はぐっと高まりました。祖母の症状を母がすべて受け止めて、例えば急に横で粗相をしてしまったりしても全然動じない。それまでは、母の仕事(ヘルパー)についてあまり知りませんでしたが、介護の仕事ってすごいんだな、すごく大変なんだなということを学びました。」
Bさん:
「祖母は内臓系の病気はほとんどなかったんです。すごく健康でも、誰でもなり得るんだなっていうのをすごく感じています。母も同じことを言っていました。
あとは、周囲の理解がすごく大切なんだということも学びました。我が家は、祖父が祖母の認知症を認めたくない気持ちが強かったので、それで介護認定を取るのも遅れてしまったんです。更に、介護認定を取ること自体もすごく難しくて…。周りや祖父が認めないので、『◯◯はできていますか?』と聞かれた時に、実際はできていないのに『はい、できてます』と答えてしまう。そうするとなかなか介護認定が取れないんです。周りが認めることや、家族が症状にいち早く気づいて、早めに病院に連れて行くのがすごく大事なことなんだな、と思いました。」
Cさん:
「とにかく頼れるところをいっぱい作って、いろんな人の力を借りていいんだ、と思えるようになったことですね。どこか、認知症を周りに知られてはいけない、隠さなきゃいけないっていうのが、田舎だとあると思うんですよね。ばれちゃいやだな、みたいな。そういう世間体みたいなのがあると思うんです。地域柄にもよると思いますが…。
でも、そういうことではなくて、認知症は誰しもが経験する可能性があるものだというのと、もっと認知症に関する窓口が広がれば、気楽に相談に行けるところが広がればいいなというのが今感じていることです。」

今後、どのような支援・サービスがあれば良いと思いますか?

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Bさん:
「医師がおかしいなと思えば、その場で紹介状なり、検査なりできるのかと思いますが、『医師がおかしいと思う=病院に通院している』ということなので、健康な人であるほど、認知症の検査をするハードルが物理的にも気持ち的にも高く感じるのかな、と。なので、がん検診のように『◯歳以上の人は受けましょう』というような案内が、国や自治体から届くようになるといいのでは?と思いました。新しい薬はどんどん世に出てきているので、早く検査や薬の服用等しやすい環境になるといいなと思います。繰り返しになりますが、私は祖母が認知症になってしまって、これまでの想い出とか私自身の成長を一緒に語り合えなくなってしまったのが一番辛かったんです。大切な想い出を失ってしまう前に、適切な対応が取りやすい世の中になって欲しいな、と思います。」
Cさん:
「我が家が比較的スムーズに介護をスタートできたのは、母がちゃんとした知識を持っていたっていうところが多分一番大きいんです。認知症には誰もがなり得るんだ、ということとか、加齢による物忘れと認知症によるものの違いとか…正しい知識がもっと広く知られて欲しいと思います。
そのためには、きちんとした医療機関などが出している資料が、例えばフリーペーパー的な感じで置いてあったり、近所の個人医院なんかにちょっと置いてあったりしたらいいなと思います。認知症を疑って病院に行かないともらえないような資料だと、入手するハードルがすごく高いですよね。あとは行政に、『◯歳以上の方には読んでいただきたい資料』みたいな感じで配っていただけたりとかすると、もっと知識が定着していくのかなとも思います。」
Aさん:
「サービスや支援というほどではないですが『認知症』はまだまだネガティブなイメージを持っている方が多いと思っていて。
もう少し、認知症の当事者が気軽に検査を受けられるサービスがあるといいなと思います。
テレビ番組で『なんか最近物覚えが悪いんだけど…』とかっていう特集があるじゃないですか。『認知症の検査方法』じゃなくそういう感じで、気軽にチェックシートを試してみたら、『認知症かもしれない』っていうのがわかる何かとか、もっとそういったものがあればいいなと思います。」

座談会に参加しての感想をお願いします

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Aさん:
「みなさんのお話をお伺いしていて、ご近所さんと『認知症になったんだけど〜』『あ、うちもそうなんだよね』みたいな感じで、気軽にお話できるような環境だったら、多分もっと違ったのかなって思いました。
例えば、自分の父とか夫の両親がもし認知症になったとして…『親が認知症になったんだよね』って話したら、『あらやだ認知症?』っていうネガティブな感じになるのが一般的な反応だと思うんです。でも、『認知症』という言い方とか、認知症を説明する言い方を工夫したら、いろいろ変わってくるんじゃないかなって。例えば、でしゃばりな人を積極的だね、と言ったり、八方美人な人を社交的ですね、とか、前向きに言い換えたりしますよね。それと同じように、認知症についてもポジティブに表現できないかなと思います。もっと優しい言い方があったらいいのにな、って。」
Bさん:
「認知症だと診断された後の認め方といいますか、周りの対応の仕方で、その後の状況がすごく変わるんだなと、改めて思いました。
あとは、認知症が認められにくい理由についても感じるところがありました。がんとか内臓の病気とかだと、目に見えて病気だってわかりますよね。例えば医師がレントゲンを見たら、ここがこうなってるから病気なんだよ、とはっきり言えると思うんですけど、認知症ってなんかそういうのがあんまりないなって。それも認められにくい理由の一つなのかなと感じました。」
Cさん:
「お二人の話を聞いて、誰か一人でも家族の中で認められない人がいると、初動がちょっと遅れがちなんだなと思いました。『うちには関係ない』と思っている人がやっぱり多いのかなと、今日の話を聞いていて感じるところがあったので、『誰にでもなり得るんだよ』っていう点をもっとリアルに感じて欲しいです。怖がらなくてもいいと思うんですけど、もっと自分事として捉えて欲しい。
あとは、初動が大切で、初期に発見すれば進行を遅らせることができるかもしれないんだよってことを伝えたいです。そのことをもっとみんながちゃんと知れば、家族の認知症で嫌な思いをする人が減るかもしれないなって。忘れちゃうっていうご本人の悲しみとか、忘れちゃって悲しいって泣くご本人を目の当たりにして辛い思いをする人が減ってほしいなと思いました。」

認知症を受け入れやすい社会へ

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孫という立場で認知症介護に関わったことがある3名のお話を伺った、今回の座談会。
「認知症かもしれない」と身近な人がいち早く気づくことの難しさ、実際に気づいてからそれを認める・受け入れるまでの心理的ハードル、そして周囲からのネガティブな印象…認知症特有の困難がいくつも存在する、ということを、改めて理解するきっかけとなりました。
また、家族が認知症になったということを周りに話しにくいから、身近に感じる人もなかなか増えていかない…という側面もあるのかな、とも感じました。そのような流れをストップするために、3名が提案してくださったような「認知症が広く、正しく知られる・理解されるための啓蒙活動」が、今後広まっていけばいいなと思います。
それと同時に、そうした外部からの働きかけをただ待つのではなく、私たちが今できることとして、「私の家族にも起こり得るんだ」とまずはリアルに感じてみる。自分の家族が実際に認知症になったらどうするかな?とシミュレーションして、疑問に思ったことを少しでもいいから自分で調べてみる。そうやって「自分事として捉えて、考える」意識を持つのが、何より大切だと感じました。
生21-5971,商品開発G
文=笹川かおり(under→stand Inc.)

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