若い時から笑うことが、認知症予防に繋がる!? 「笑う」行動と健康との関係性【後編】

若い時から笑うことが、認知症予防に繋がる!? 「笑う」行動と健康との関係性【後編】

福島県立医科大学疫学講座の大平哲也教授へのインタビュー後編。前編では「笑い」と認知症に関する研究について詳しくお伺いしましたが、後編では実際に「笑い」を増やしていく為におすすめの方法を伺いました。(前編はこちら)

あまり笑わない日本人男性

そもそも「笑い」の回数というのは、平均どの程度なのでしょうか。ある調査によると、アメリカ人が1日に笑う回数が17回であるのに対し、日本人は1日に11.3回しか笑わないというのです。

「日本人が声に出して笑う頻度を調査してみたのですが、毎日声を出して笑っている人は男性で40%、女性で55%でした。日本人は男女差があるのですが、実はアメリカ人はあまり男女差がないんです。」

国によって異なる「笑い」の回数、そして男女差。そこには「笑い」と関係性が深い「おしゃべり」が関係しているのだそうです。

「アメリカ人のおしゃべりの頻度は男女同程度です。それに比べて、日本人は男性より女性の方がよくしゃべります。また、男性が誰と接している時に笑うのかを調べると、1位が妻で、2位が友達なのです。対して女性は友達が1位。さらに男性は、妻がいる人といない人では倍くらい笑う量が違うんです。原因としては、男性が退職後に地域に戻ると、交友関係があまりないせいで孤立してしまうことが考えられます。」

全国で広がる「笑いヨガ」

それでは、笑いの数を増やしていくためにはどうしたら良いのでしょうか。大平教授がおすすめするのは、とにかく人付き合いを増やすことだそうです。

人と話すことで笑いが起こります。1人暮らしの方でも、介護サービスのデイケアや地域のサロン等で、人と接する機会を増やしていくことが重要です。

また、大平教授が定期的に開催する健康教室で取り入れているのが「笑いヨガ」だそうです。

「最初は落語や漫才をやっていたのですが、参加者全員が笑うことはできませんでした。誰でも笑う方法を探していて見つけたのが、インド発祥の笑いヨガです。笑う体操によって面白くなくても笑うので、誰でも笑うことが出来ます。」
▲実際の笑いヨガの様子

▲実際の笑いヨガの様子

「その効果を調べる為にストレスホルモンを見てみたのですが、落語では7割の方のストレスホルモンが下がったのに対し、笑いヨガでは9割の方のストレスホルモンが下がったのです。このことから、何で笑うかという理由よりも、笑うという行動そのものが大事なのだと分かりました。」

1995年にインドで始まった笑いヨガは、世界100カ国以上、日本でも全国的に普及。日本には750以上の笑いヨガクラブがあり、15,000人以上の講師がいらっしゃるそうです。

「認知症を発症した後に笑いで認知症自体を改善することはなかなか難しいですが、笑いによって不安や不眠、うつ、興奮行動といった認知症の周辺症状が改善される傾向にあることは分かっています。」

笑いを増やすためには

その他にも、赤ちゃんと触れ合うことで笑いが増えたり、犬などの動物と触れ合うことで笑いが増えたりします。

「笑いを増やすためには特に犬がおすすめです。散歩したり買い物したり、ペットショップで質問したりと、犬を起点に自然とコミュニケーションが生まれるからです。1人暮らしでも、なるべくコミュニケーションを取る場を増やすことを意識してみてください。地域のサロンに行ったり、趣味を作ったり。なかなか外に出にくい男性であれば、自治体などの社会活動で役割を持ち、外に出ていくことが良いでしょう。」

また、大平教授は「笑い」の回数や笑ったことを記していく「笑い日誌」をおすすめしています。

「笑いは意識しないと減っていきますが、意識するだけで増えるんです。日誌をつけると、『今日は笑ってないな』と気づくことができる。笑わなくちゃ、と意識すると必ず笑いが増えていきますよ。」

より効果的な笑い

自分1人でも出来る「笑い」としておすすめなのは、想像力を働かせながら聴く落語。ここでも、テレビで見るよりも実際に寄席に行くことが重要です。

「生で話している人を見たり、周りの笑っている雰囲気に触れたりすることが、自分の笑いを引き起こすのです。2人以上で行くと観た後に感想を語ることで更に笑いが増えていきます。また、男性は妻を大事にすることですね。歳をとってもたくさん話してもらえるように、若いうちから大事にしてください。(笑)」

スポーツであればジョギングやウォーキングといった1人で行う運動よりも、誰かと行うチームスポーツがおすすめです。デンマークの研究では、テニスやバドミントン、サッカーといったチームスポーツが寿命に好影響を及ぼすスポーツであり、フィットネスやジョギングといった個人スポーツはそれほどでもないとのこと。

「人と接する競技の方が、運動だけでなくコミュニケーションが生まれる効果が見込めます。日本だと、気軽にできる卓球でも良いかもしれませんね。」

行動は変えられる。認知症予防は若いうちから

認知症は、若い頃から予防を積み重ねることが重要だと大平教授は言います。
▲若い時から笑うことの重要性を説く大平教授

▲若い時から笑うことの重要性を説く大平教授

「不安を消そうとしたり、怒りをコントロールしたり、感情を変えるのはとても難しい。でも『笑い』は行動だから変えることができる。『ハハハ!』と口に出すだけで笑うことが出来ます。」

「ぜひ4,50代の若いうちから予防を始めて欲しいですね。体を動かすという運動面も、地域でどう生活していくかという社会面も。認知症予防の方法はひとつではありません。身体面、心理面、社会面、生きがいなどの実存面。何かひとつに集中するのではなく、多面的に、様々なことをバランスよくやっていくことが重要です。」
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大平哲也さん

大平哲也さん

福島県いわき市生まれ。平成2年に福島県立医科大学医学部医学学科卒業。現在、福島県立医科大学医学部疫学講座の主任教授、同 放射線医学県民健康管理センター疫学部門の部門長を務める。研究分野は循環器疾患の疫学、予防医学、健康科学、心身医学。研究経歴には、「笑い等のポジティブな心理介入が生活習慣病発症・重症化予防に及ぼす影響についての疫学研究」などがある。

文=齋藤優里花(under→stand Inc.)/ 写真=山本春花

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