おはよう21 2016年10月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
当事者が気軽に訪れられる「ドア」に
当事者が当事者と出会う
2015年にスタートした「おれんじドア」は、“ご本人のためのもの忘れ相談窓口”として、活動を続けています。
認知症(あるいはその不安がある人)の当事者同士で話し合いをすることを中心に、毎月、仙台市内で活動を行っています。すでに10回以上開催しましたが、3〜4人の当事者が参加するケースが多いです。
私自身が、当事者との出会いによって前向きになれた経験がきっかけで、この活動を始めました。
診断当初、大きな不安のなか、誰に相談すればいいかさえわからなかったことを振り返ると、まずは気軽に、安心して相談できる場所が大事だと思いました。
ですから、おれんじドアは、当事者が敷居の高さを感じないこと、訪れやすいということに、こだわっています。
「入り口」であって「居場所」ではない
気軽に来られる場にしたいという一方で、おれんじドア自体は、当事者にとっての居場所ではないと考えています。
ここに来て当事者同士で話をして、気持ちが明るくなったりすることで、その先の居場所や、前向きな生活につながっていくことが目的なのです。「入り口」であって、ずっといるための「居場所」ではない。
でも自分の経験からも、その入り口があることが、とても重要だと考えていました。
更に、おれんじドアの実行委員には、介護施設で働いている人や保健師さん、病院の先生、家族の会の人など、さまざまな人がかかわっています。そのため、それらの人がもつネットワークを活かして、その当事者にとって必要な次の居場所や出会いに、つなげやすいという特徴があります。
おれんじドアにいる医師と気軽に話をしたことで、ずっと悩んでいた病院受診に踏み出せた人、ここでの会話がきっかけで家族の会につながって、そこで仲間を見つけて楽しく過ごすようになった人もいました。
おれんじドアは、その人にとっての希望や居場所への「出会いの場」にしたいと思っているのです。
コンセプトは、ゆるくあること
おれんじドアの基本コンセプトは、よい意味での「ゆるさ」かもしれません。訪れる人にとっても、運営する人にとってもです。
10数人いるおれんじドア実行委員は、皆ボランティアですが、来られるときだけ来てもらえればよく、そのスタンスで活動は続いています。
開催日時と場所は、誰でも見られるようにインターネット上に掲載しています。
自分で調べて、当日来られた当事者もいました。近隣の地域包括支援センターにも活動を周知しているので、専門職を通じて来る人もいます。
会場は、大学キャンパスのなかにあるカフェをよく使わせてもらっています。その日来られた当事者同士が話すテーブルをフロアの奥のほうに設定し、そこから少し距離を置いて、家族や支援者同士が話すテーブルをつくります。話している内容まではわからないけれど、互いに雰囲気は伝わってくるようなテーブルの距離感です。
当事者同士での話し合いでは、私が司会をします。話の流れなどは特に決めず、自由にやっています。
自己紹介のあと、昔やっていたことや仕事のこと、スポーツの話など、きっかけがあると、自分からどんどん話をしてくれます。その流れのなかで、今の生活で困っていることを話す人もいます。
ただ、話したくなければ無理に話す必要はないし、言いたくなければ名前も言わなくていいと思っています。ここでも「ゆるさ」が大事です。
そう思って進めていますが、これまでの活動のなかで、半ば無理やりのように家族が連れてきた人でさえも、皆さん自分の名前を名乗り、自らのことを語ってくれます。
当事者と家族が一緒に来るケースももちろんありますが、おれんじドアでは、必ず本人と家族を分けて話をするようにしています。
この理由は、私のなかで印象深かったエピソードとともに、次回お伝えしたいと思います。
生22-1053,商品開発G