丹野智文 認知症と生きる⑩

丹野智文 認知症と生きる⑩

おはよう21 2016年9月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
自分がもらった元気を人にも伝えたい

車内での企み

「宮城の認知症ケアを考える会」(以下、考える会)のメンバーと行った京都旅行からの帰りのこと。またもや新幹線のなかで、新たな活動の芽は生まれました。
車内で私は、いずみの杜診療所の山崎英樹先生、東北福祉大学の高橋誠一先生、仙台で介護事業をやっている井上博文さんと一緒に、楽しくお酒を飲んでいました。3人とも、宮城の認知症ケアの最前線で活躍する人たちです。
京都での講演のなかで、私自身は当事者との出会いがあって元気になれたことを伝えていたのですが、そんな話題の流れで漠然と「僕もほかの当事者に元気を与えられるかもね」なんて話をしていました。
すると、「それなら丹野くんを中心に何かやろう」と話が盛り上がってきたのです。
お酒を片手に楽しげに話す私たちの様子に、同行していた女性たちは少し心配そうでした。いろんなことをやり過ぎると私が大変なのではと、「当事者である私」を守ろうとする息子に対する母のような意識があったみたいです。でも、そういった周囲の少し多めの心配も、その後の活動のなかで薄れていったように思います。

模索のなかで

それから頻繁に、4人で集まり、話し合いをしました。
「考える会」のほかのメンバーを交えて会議をすることもあれば、お酒を飲みながらくだけた話をすることもありました。「丹野くんの本を出したら」なんて案も出て、メンバーの知り合いのライターに話を聞いたこともありました。
アイデアを模索し、語り合うなかで、山崎先生たちとの関係は一層深まっていったと思います。ただ、具体的に何をやるかは、私のなかでも、未だ定まっていませんでした。

山崎先生の問いかけ

ある講演の帰り、山崎先生に車で自宅まで送ってもらうことがありました。その車中で、ふと山崎先生が、「丹野くんはどうやってこんなに元気になれたの?」とあらためて私に尋ねました。
いろいろな当事者の人たちとの出会いがありましたが、そのとき私は、竹内裕さんのことを思い出していました。
「認知症でも、アクティブで、人としてとても優しい人に出会ったからです。話をして、その人柄に直に触れて、『僕もそうなりたい』と思い、元気になったんです」
すると先生は、こんな提案をしました。「じゃあ今度は丹野くんが、ほかの認知症の人と出会うことで、元気を与えてみない?」
一人の当事者として、当事者と出会い、話をする――それまでもいろいろな案が出ましたが、シンプルなこの構想が、私がやりたかったことと一番近いように感じました。やってみようと、思えました。
「考える会」の世話人会で、「私が当事者の人と話をすることで、その人に元気をあげられるような場をつくりたい」と伝えました。
世話人会には、県内で認知症にかかわるさまざまな人がいます。医師、地域包括支援センター職員、ケアマネジャー、看護師、介護事業所の人、家族の会の人、弁護士、薬剤師……。皆、団体の代表だったり、各分野で活躍する人たちなので、たくさんのツテとノウハウがあります。「活動場所は?」「運営方法は?」と、どんどん話は具体的になり、準備はトントン拍子で進みました。

「おれんじドア」始動

世話人会で実行委員を募ると、すぐに10人ほどの方が手を挙げてくれ、活動場所も東北福祉大学のキャンパスにあるカフェが借りられそうという話になりました。皆で決めた活動の名称は「おれんじドア」です。
日本では、認知症をサポートする活動で象徴的に使われる「オレンジ」の色。その後に、「ドア」とつけたのには、理由があります。当事者が敷居の高さを感じず、気軽に訪れることができる「入り口」にしたかったのです。
その意味を、次回詳しくお伝えしたいと思います。
▲おれんじドアのチラシ

▲おれんじドアのチラシ

生22-214,商品開発G
丹野智文さん

丹野智文さん

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