丹野智文 認知症と生きる 最終回

丹野智文 認知症と生きる 最終回

おはよう21 2017年4月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
認知症と、ともに

進行のこと

アルツハイマー型認知症と診断されて、もうすぐ4年が経ちます。この連載が始まってからも、1つ歳を重ねました。
インターネット上に溢れる「2年で寝たきり」「10年で死ぬ」という情報はもう信じていませんが、それでも進行について考えると、怖いし、不安です。
そこに関しては、診断当初と、何も変わらないといえば変わらないかもしれません。
少しずつ少しずつ、できないことが増えてきてはいます。記憶力も、以前より悪いなと感じることも、急激に進んでいるように思えて「あれ、やばいな?」と感じることも、時々あります。そんなときは、「この先、あと何年なのかな」と、悪いほうに考えたりもします。
けれど――どう言ったらいいのでしょう。今のようにゆっくり進んでいけば、十分、このまま普通に生活していける気もしているのです。

考える力があれば

身体は普通に動くし、走ることもできるし、遊ぶこともできる。できないことはあるかもしれないけど、できないことをどう補うか、考える力はまったく衰えていないような気がします。
ここ半年ほど、本当にふとしたとき、漢字が文字と認識できなくて、記号のように見える瞬間があります。でも書きたい言葉はわかっているので、パソコンに文字を表示させてそれを真似て写しています。
記憶が悪ければノートに書くし、道がわからなくなれば「一回、ちょっと戻ってみようか」と対処する。考える力は、まだ確かにあるのです。
そしてこのまま、少しずつ病気が悪くなっていったとしても、今のように周りにたくさんいる「パートナー」と呼べる人たちとつながっていられるなら、普通に生活していけるのではないかと思っています。

笑顔で伝えていく

認知症の当事者として人前に出るようになったので、「社会を変えよう」と大義に燃える人間のように思われているかもしれませんが、実際の私はそうではありません。
講演も、「頼まれたら行こう」と思ってはいますが、自分の話がよいと思ってもいないので、わざわざ聴きに来てくださる方にはいつもありがたいなと感じています。自分が何かを変えたいというよりは、私の話を聞いた人のなかで、一人でも二人でも、自然と認知症の人への接し方や考えが、変わってくれればいいかなと、気負わず、楽しんでやっています。
唯一、意識しているのは、「笑顔でいること」です
今まで、世間一般の人は、認知症の人が笑う姿をあまり見てこなかったし、笑っているイメージがないと思います。だからこそ、私が笑っている姿を見て、「普通に笑っていられるんだ」と多くの人に知ってもらうことは大事です。私の笑顔に、「なんで笑っているんだろう」と、考えてくれる人もいるかもしれません。
もちろん、病気は進んでほしくないと思っています。けれど、もし進行したとしても、自分がそのときそのときのありのままの姿で発信をしていくことで、より多くの人に認知症のことを理解してもらいたいとも、今は考えています。

人とのつながりに願うもの

あらためて、自分のこれまでの活動を振り返ってみると、その原動力には、家族への思いがあるかもしれません。
やはり、一番の心配は妻と娘たちのことです。特に妻のことは、心配で心配で、仕方ありません。ですから家族のために、私の病気が進んでいったときのための支援体制を、自分が構築しておかなければという気持ちも、どこかにあります。
宮城県内でも、県外でも、講演やRUN伴(とも)(認知症の人とたすきをつないで走るマラソンイベント)など、さまざまな形で私とつながってくれた人たちが、私の病気が進んだときに、家族を助けてくれるのではないかという、そんな思いもあります。
そしてそのときには、自分にとっても普通に過ごすことができる、今嫌だと感じることが認知症だからと当然のように押し付けられたりしない、生きやすい環境がここにあってほしいと願っています。
1日1日を楽しんで、笑って生きていたいと思っています。認知症になっても、皆がチャンスをつかんで、ごく普通に、認知症とともに生きていける社会――。笑っている私の姿が、その一つのきっかけになることを祈って、この連載を終わりたいと思います。
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丹野智文さん

丹野智文さん

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