「若年性認知症でも、やれることはある」 講演・バンドと充実の生活をスタートできたきっかけとは【後編】

「若年性認知症でも、やれることはある」 講演・バンドと充実の生活をスタートできたきっかけとは【後編】

40歳で若年性認知症の診断を受け休職し、その後ふさぎこんでいた渡邊雅徳さん。しかしその後、同じ若年性認知症でありながら活躍する方々の存在によって、徐々に変わっていくことになります。(前編はこちら)

ポジティブに変わったきっかけ

若年性認知症である丹野智文さんとの出会いで励まされた渡邊さん。更に、背中を押してくれた2人との出会いがありました。

「同じく若年性認知症と診断され、ピアサポーター(※1)として活動する佐藤雅彦さんと猪鼻秀俊さんとの出会いです。佐藤さんは臨床美術で個展を開いたり画集を出したり、ピアノの発表会を開催されたりしています。」

「猪鼻さんは楽譜も読めなかったのに、動画を見てオカリナを習得し、今や100曲以上のレパートリーがあるんです。2人に出会って、『なんだ!若年性認知症でも覚えられるじゃん!』と気づきました。」

徐々にポジティブに変わっていくことができた渡邊さんは、講演会に参加したり、若年性認知症支援コーディネーターが主催する「リンカフェ」の運営メンバーとして活動したりし始めます。

バンドや勉強、チャレンジは終わらない

「リンカフェ」に訪れて印象的だったのが、皆さん笑顔が絶えず和やかな雰囲気だったことです。笑顔で卓球に取り組む姿から、皆さんの仲良し度が伝わってきます。
▲卓球で真剣勝負を繰り広げる渡邊さんら

▲卓球で真剣勝負を繰り広げる渡邊さんら

「若年性認知症支援コーディネーターさんがリンカフェに卓球台を持ってきたときは、『絶対卓球なんかしない!』と反発していました。でも、初めリンカフェに暗い表情で来ていた人も、一緒に卓球をしていると笑顔になったり、冗談を言ったりするようになっていて。卓球には効果があるんだな、と思ったんです。」

かつての渡邊さんのように家で沈んでいた人も、「リンカフェ」の明るく優しい空気と卓球で体を動かすことで、感情が少しずつ解放されていったのかもしれません。

「当事者同士なのも良いのかもしれません。自分も、どんなにコーディネーターさんに講演会に誘われても行かなかったけれど、丹野さんに言われたら行こうと思えた。当事者同士だからこそ、分かり合えることもあると思います」

渡邊さんはリンカフェに訪れている方々と一緒に、埼玉県作業療法士会主催の「これでいいのだバンド」に参加。月に1度は練習し、様々なイベントにも出演しているそうです。
▲「これでいいのだバンド」の皆さん

▲「これでいいのだバンド」の皆さん

「バンドの名前には、ありのままの自分で良いんだ、という願いが込められています。オカリナ奏者である猪鼻さんをはじめ、ギターやリコーダーが吹けるリンカフェのメンバーと一緒に活動しています」

更に、渡邊さんが現在取り組んでいるチャレンジがあります。それは、お金にまつわるアドバイスなどを行うファイナンシャルプランナーの資格取得です。

「最初は再就職に有利になるように、と思って始めたんです。でも、リンカフェにいるとその知識が役立つことがあることに気がつきました。資格を取得できれば若年性認知症の当事者兼相談員になれます。それを目指して今は毎日勉強しています」

若年性認知症の当事者同士だからこそ、悩みや不安を分かち合えることもあります。そんな渡邊さんが専門的知識も手に入れたら、きっと多くの人にとって心強い存在となるでしょう。

現状、再就職もなかなか難しい

認知症に関してテレビなどのメディアで取り扱われることも徐々に増えてきましたが、それでも偏見は少なからずあるのが現状です。
▲「若年性認知症でも、やれることはある」と語る渡邊さん

▲「若年性認知症でも、やれることはある」と語る渡邊さん

「周囲からも、心ない言葉や偏見を感じることはあります。結局、仕事も辞めることになってしまいました。自分自身でさえ、発症当初は新しいことはもう覚えられないと思っていました。」

「障害者OKと謳っていても認知症は無理と言われることもあり、再就職はなかなか難しいのが現状です。若年性認知症であっても、やれることはある。それをもっと知ってもらえると良いと思います。」
※1:自らの体験に基づいて若年性認知症と診断された人々の相談相手となったり、支援活動を行ったりする人々のこと。
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渡邊雅徳さん

渡邊雅徳さん

文=齋藤優里花(under→stand Inc.)/ 写真=山本春花

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