子どもへの認知症啓発から、豊かなコミュニティを目指す。楽しく学べる「こども力(ちから)プロジェクト」とは【後編】

子どもへの認知症啓発から、豊かなコミュニティを目指す。楽しく学べる「こども力(ちから)プロジェクト」とは【後編】

子どもたちに着目した啓発活動「認知症こども力(ちから)プロジェクト」を行っている千葉大学医学部附属病院認知症疾患医療センター。講師を務める平野さんへ、後編ではプロジェクトの内容や狙いについてお話を伺いました。前編はこちら
今回は「こども力プロジェクト」の一つである、高学年以上を対象とした「認知症キッズワークショップ」についてご紹介します。

何かと忙しい子どもだからこそ、参加したくなるイベントを

「認知症キッズワークショップ」では、イラスト教室や映画観賞会等のワークショップ・イベントを開催しています。基本的に参加は公募とのことですが、企画づくりではどのようなことを意識されているのでしょうか。
「遊びや勉強に忙しい子どもたちの多くは、認知症にそこまで関心がないかもしれません。しかしそんな子にこそ、認知症に触れる機会を届けたい。だからこそ、まずは”楽しそう、参加してみたい”と思ってもらえるよう、心がけています。」
実際に、訪れる子どもの多くは、”認知症に興味がある”というよりも”楽しそうだから来た”という方が多いそうです。
イラスト教室では、認知症のパンフレットを作ることで、学ぶ機会を創る。映画観賞会では、認知症に関する映画を観ることで、考える機会を創る。そういった創意工夫が、企画に込められています。
▲「子ども向け認知症パンフレット」作成中の様子

▲「子ども向け認知症パンフレット」作成中の様子

認知症の人と触れ合う機会を創る

クラブ活動のような感覚で楽しみながら、認知症を学ぶ機会を提供する「認知症キッズワークショップ」。プログラムの一環として、子どもたちが施設へ訪問することもあるそうです。
「以前『子ども向け認知症パンフレット』作成を目的とした4日間のワークショップを実施しました。そこでは、最終日のパンフレット作成の前日に認知症の人が生活している施設を訪ね、交流の場を設けました。」
施設訪問の際、子どもたちが作ったうちわを施設で暮らす方々へプレゼントしたそうです。施設の方々も子どもたちも、交流を楽しんでいるようだったと、平野さんは振り返ります。
「子どもたちにとっては、自身が学び、作ったものを相手へ届けることで、認知症の人を他人事ではなく、一人の身近な人として触れ合うことのできる機会になったと思います。」
▲施設訪問の際、子どもたちがプレゼントしたうちわ

▲施設訪問の際、子どもたちがプレゼントしたうちわ

体験が興味に、興味が理解へと繋がる

知識も大切である一方、体験することに大きな意味があると、平野さんは言います。
「体験があってこそ実感や興味が湧き、理解が深まるものだと考えています。実際に、ワークショップに参加した生徒の中には、施設訪問後も交流した認知症の人を気にかけるようになった方や、その後看護師になった方もいます。」
体験があってこそ、真の理解へと繋がる。平野さんがそう言い切る背景には、自身の過去の経験がありました。
「私が小学生の頃、祖母が認知症を発症しました。当時は認知症の理解も進んでおらず、祖母が変わってしまったような気がして近づきにくくなり、結果的にそのまま別れることになった経験があります。現在認知症に関する仕事に携わる上でも、未だ心にしこりが残っている感覚があります。」
平野さんは、自身の経験やある種の後悔を踏まえ、認知症と向き合っているのでしょう。

豊かなコミュニティとは、個人がその人自身でいられる環境

最後に、平野さんへ認知症についてもっと知って欲しいことについて伺いました。
「認知症だから何もできないということはありません。周囲の方々含め、認知症の人本人ができないこと、したいこと、できることを互いに理解することが重要です。社会に役立ちたい、厄介になりたくない、という気持ちは普遍的なもので、認知症の人も同じです。だからこそ、互いに尊厳を保ち、関わりあえる社会になることを目指していきたいと思います。」
今後はもっと多くの子どもたちに参加してもらえるよう、工夫をしていきたいと語る平野さん。子どもへの啓発から、一人ひとりが尊厳を保ち、尊重し合える豊かなコミュニティへ。平野さんたちの挑戦は続きます。
生21-2050,商品開発G
平野成樹さん

平野成樹さん

文=北浦勝大(under→stand Inc.)

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