認知症と「物忘れ」の違いとは?

認知症と「物忘れ」の違いとは?

予定が思い出せなかったり、しまった場所を忘れてしまったりが増えると「もしかして認知症?」と心配になってしまうこともあると思います。
ただ、加齢による自然現象の「ただの物忘れ」と「認知症」は性質が異なり、ただの物忘れであれば過度に心配する必要はないといわれています。この機会に、加齢による物忘れと認知症がどのように違うのかを理解しておきましょう。

「高齢者の物忘れ=認知症」とは限らない

物忘れには「認知症に伴う物忘れ」と「老化現象に伴う正常な物忘れ」があります。

一般的に脳の機能は60歳頃を境に徐々に低下していき、記憶力や判断力、適応力などが衰え、物忘れも次第に増えていきます。また、蓄えた記憶を再生する機能も衰えるため、覚えていたことを思い出すまでに時間がかかったりもします。

そのため「とっさに人の名前が思い出せない」「物の名前が出てこない」「朝何を食べたか思い出せない」といった物忘れが見られるようになりますが、これらは自然な老化現象による物忘れであって認知症ではありません。

認知症と「物忘れ」の違いを見分けるには?

高齢者の物忘れが認知症によるものか、それとも加齢に伴う正常な物忘れかを見分けるのはなかなか難しいです。ただ、認知症に気づくためには次のような目安が役立ちます。

■物忘れの範囲が「一部」か「全体」か
実際に経験した出来事の一部を忘れるのは正常な物忘れですが、出来事の全てを忘れている場合は認知症の可能性があります。

○「体験の一部」を忘れるのが物忘れ
・朝食を食べたことは覚えているが、何を食べたか思い出せない
・メガネをしまったが、どこにしまったか忘れる
・旅行に行ったことは覚えているが、地名は忘れた

○「体験の全体」を忘れるのが認知症
・朝食を食べたこと自体を忘れている
・メガネをしまったこと自体を忘れている
・旅行に行ったこと自体覚えていない

■名前を聞いて「思い出せる」か「わからない」か
歌手や俳優などの名前がすぐには出てこなくても、しばらくすると思い出せれば、それは正常な物忘れでしょう。誰かに聞いて「そうだった!」と気づいたり、ヒントで思い出せたり、自分で調べて解決しようと対処している姿があれば、さほど心配する必要はありません。

ただし、もしご家族や友人など身近な人の名前が出てこなかったり、ヒントを出して名前を聞いてもわからなかったりすれば、認知症による物忘れの可能性があります。

■物忘れの「自覚がある」か「ない」か
「何か用事があったのに、忘れてしまった」という自覚があれば、正常な物忘れだと考えてもいいでしょう。一方で、「用事があったことすら忘れている」「用事のヒントを聞いても思い出せない」「忘れたことを指摘されても自覚がない」という場合は、認知症が疑われます。

■「日常生活に支障がある」か「ない」か
正常な物忘れであれば日常生活に支障をきたすことはほとんどありませんが、認知症に伴う物忘れの場合、以下のような言動が見られ、しだいに日常生活に支障をきたすようになります。

・何度も同じことを聞く
・鍋に火をかけっぱなしで出かける
・慣れたはずの道で迷子になる
・約束の時間や、病院の受診日時を忘れる
・洗濯機などの使いかたがわからなくなる

■「学習能力がある」か「ない」か
正常な物忘れであれば判断力や理解力に大きな問題はないため、新しいことを覚えることができます。しかし認知症による物忘れの場合は、新しいことが覚えられなかったり、料理や掃除などの日常動作を順序立てて行えなくなったりします。

■妄想の有無
正常な物忘れの場合、幻想や妄想といった症状は見られませんが、認知症の場合は事実に反して「お金を誰かに盗られた」などの妄想が見られることがあります。

■人格の変化
正常な物忘れの場合、人格に変化はありませんが、認知症になると突然暴言や暴力をふるったり、怒りっぽくなったり、疑い深くなったり、何ごとに対しても無気力になったりなどの変化が見られることがあります。

■認知機能(※)の進行
正常な物忘れでは認知機能がひどく低下することはありませんが、認知症による物忘れの場合は認知機能が徐々に悪化していき、ある程度進行すると日常生活全般に支障をきたすようになります。

※認知機能:五感を通じて外から得たさまざまな情報を認識し、記憶する、理解する、判断する、学習する、計算する、思考したうえで行動に移すこと。言語機能や遂行機能、見当識などが含まれる。

おわりに:「認知症かも?」と思っても、本人の心を傷つけない形で専門外来への受診を

認知症か、老化に伴う正常な物忘れかの判断は、最終的には専門医の判断を仰ぐべきことです。いきなりご家族や身近な人から「認知症じゃない?」と言われてしまえば、どのような方でも少なからず傷ついてしまうでしょう。
普段の生活の中でそれとなくチェックし、認知症が疑われるような兆候があるときは、やさしく寄り添う気持ちを忘れず誘導し、病院に付き添ってあげましょう。

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