丹野智文 認知症と生きる⑥

丹野智文 認知症と生きる⑥

おはよう21 2016年5月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
新たな仕事、新たな出会い

本当の共感

診断後、若年性認知症の人のための“「翼」のつどい”に参加したものの、自分より上の世代の当事者やその家族のなかで、「ここにいていいのかな……」と私は感じていました。
しかし、2回目、3回目と戸惑いつつも「翼」に参加したとき、話し合いのなかで、たまたま薬の話になったのです。最初に隣の席をすすめてくれた方が、奥さんの薬が変わったと話していて、「あ、自分とまるっきり同じ薬だな」と思いました。それで同じ病気なんだと実感したというか、仲間意識じゃないですけれど、どこか安心をしたのです。
もの忘れのことに関しても、それまでの経験では、同僚や周囲の人に「俺も同じことあるよ」「疲れているだけじゃない?」と言われるばかりで、私のなかには「本当に同じなのかな?」という苛立ちのようなものがありました。そのことから、記憶力のことについては人に一切話さなくなっていました。
ところが、「翼」の人に「わかる」「同じ同じ」と言ってもらえると、気持ちが全然違いました。忘れることや、薬の副作用の大変さなど、本当のところをわかってくれ、聞いてくれる人がいる。しかも具体的なアドバイスももらえるということが、嬉しかったのです。
それから月2回の“「翼」のつどい”にはコンスタントに参加して、合唱などの活動も楽しみながら一緒にやるようになりました。

2冊のノート

仕事では、5月にネッツトヨタ仙台の人事・総務グループに復帰しました。仕事を続けられることはとても嬉しかったのですが、慣れない総務の仕事を覚えるのに最初は必死でした。記憶力も悪い時期で、不安もありました。
「覚えられないんだから、とにかく書かなきゃ」と、ノートを2冊用意しました。1冊は仕事のやり方・手順を書くノートです。
最初に、教わった手順をノートに書きます。次に自分でやろうとノートを見ますが、全然わからない。それでまた人に聞いて、自分でやるために必要な情報を継ぎ足しました。どの棚の何段目にファイルが入っている、パソコンのこのフォルダはこの手順で開く、この書類はどのプリンターからどのサイズで出す——本当に全部書くんです。
もう一冊のノートは「終わった仕事」を書くものです。毎月行う仕事のリストと、年間で行う仕事のリストを作りました。1年目にひととおり仕事をやってみて、この時期にやる仕事とわかったものを適宜加えていきました。
それぞれの仕事が終わったらリストに丸印をつけます。1週間後に見ると、丸がついていてもやった覚えがないので「本当に終わったのかな」と思うのですが、もう信じるしかありません。そうやって自分の中で折り合いをつけて、一つひとつの仕事をこなしています。
最初の数カ月は、そうやって緊張して働いていたのと、診断後でまだ気持ちが上がらない状態だったこともあって、職場の人も私に対して、「話しかけてもいいのかな」と思っていたようでした。
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細かく手順を書いたノート(上)
終わった仕事に◯をつけるノート(下)は、一覧の他に毎日の「やったこと」も記録する 

新たな出会い

仕事に復帰し、家族の会に入って少しずつ生活が軌道に乗り始めた2013年秋、転機となる出会いがありました。
富山で行われる家族の会の「本人交流会」へのお誘いを受け、「翼」のメンバーと一緒に富山に行くことになりました。
出発の前日にも「翼」があったのですが、そこに竹内さんという男性が広島からやって来ました。竹内さんは認知症の当事者で、富山に行くメンバーの友人でした。発症して5、6年経っていたと思いますが、皆と合流して一緒に富山に行こうと、一人で仙台に来られたのです。
海外にも一人旅をするという、非常にアクティブな方でした。富山への移動中、私はずっと竹内さんと話していました。あまりに元気なので、「本当に認知症なのかな」と思いましたが、聞くと仕事でも大きな失敗をしたし、発症して1年半は家から出られなかった」と言います。
「そんなにつらい思いをしたけれど、今はこうやって生き生きとしていられるんだ」。衝撃でした。
気持ちがまた大きく変わってきたのは、ここからでした。
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丹野智文さん

丹野智文さん

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