丹野智文 認知症と生きる⑤

丹野智文 認知症と生きる⑤

おはよう21 2016年4月号
日本認知症ワーキンググループ/おれんじドア実行委員会代表 丹野智文
※本記事は、2015年~2017年に月刊誌『おはよう21』に掲載された丹野智文さんの連載「41歳、認知症と歩む」を、一部改変のうえ、再掲するものです。記載内容等は連載当時のものとなっております。
講演やマスメディアを通し、 認知症の当事者として発信を続ける丹野智文さんが、今までのこと、これからのことを語ります。
家族の会との出会い、そして職場復帰

家族の会へ

診断を受けてすぐの2013年4月。公的な支援を求めて、私は区役所を訪れました。
窓口に行き、「病院でアルツハイマーと診断されたのですが、何か支援はありますか」と尋ねると、窓口の人はいったん裏に行き、上司と思われる別の人が出てきて言いました。「40歳未満は介護保険を使えないんですよね」。
「そうですか、では何か他にありますか?」「いつ診断されたんですか」「先日です」「何もありません、今のところ」
おそらく、私がアルツハイマーということ自体、信じられていなかったのだと思います。
何も良い情報が得られなかったとがっかりして帰路につくとき、ふと思い出したことがありました。
入院中、インターネットで病気について夜通し調べたとき、「認知症の人と家族の会」の宮城県支部のホームページで資料請求をしていたのです。県内で治療できるところがないかと「宮城県」「アルツハイマー」と検索して辿り着いたページでした。請求した資料はまだ届いていませんでしたが、事務所が区役所の近くにあったことを思い出したのです。
認知症の当事者のためというより、その介護者が行く会だろうと思いましたが、行けるところはそこしか思いつきませんでした。それに、インターネットの情報のとおり、自分が寝たきりになるというのなら、そのとき妻を助けてくれる人が必要でした。
事務所を訪ねると、年配の職員の方がいました。私を当事者と思わなかったようで、「誰の相談ですか?」と聞かれ、「私のです」と答えました。
支部のなかに若年性認知症の人のための“「翼」のつどい”という集まりがあり、活動では歌を歌ったりすると説明がありました。「歌は好きじゃないけれど……」と躊躇しつつ帰宅すると、その夜、「翼」の担当の方から電話がかかってきました。それが、今も私の講演活動などにパートナーとして同行してくれる若生栄子さんでした。
電話では、私からは「家族の会に若い人がいるか」などの質問をして、若生さんからは「少し先につどいがあるので来ませんか?」と誘いがありました。たまたま翌週に家族の会の「支部総会」があるとのことで、まずそこに顔を出してみてと言われました。
公共の建物の会議室で行われた総会に行くと、当事者の家族の人たちや事務局の人など、50人くらいがいました。オープニングで披露されたのは、“「翼」のつどい”のメンバーによる合唱。その歌が素晴らしくて、びっくりしたのです。
曲は『翼をください』『高原列車は行く』などで、正直「古い歌だなぁ」と感じたのですが、発声が本格的で、とても上手でした。後からわかりましたが、「翼」ではただ歌うだけでなく、人に感動を与えられる合唱にしようと、プロが発声から教えているのです。
その他、「家族の会」の年間の活動や決算報告などを聞き、その日に若生さんとも直接会いました。再度つどいに誘われ、先ほどの素晴らしい歌を聴いたこともあって、「行ってみようかな」と思えました。

社長との面会

会社のことについては、4月中にネッツトヨタ仙台の当時の社長である野萱(のがや) 和夫さんに会いに行きました。社長は販売店にもよく顔を出す方だったので、それまでの業務のなかでもかかわりは頻繁にありました。
妻と一緒に本社に行き、「若年性アルツハイマーで間違いないと言われました」と告げると、社長は「体は動くんだろう?」と。
「今までどおり動きます」と答えると、「机を運ぶ仕事とかあるから」と言うんです。車会社にそんな仕事はあまりないと思いますが、社長はさもいっぱいあるかのように言い、「戻ってきなさい」と言ってくれました。
妻と一緒に駐車場の車に戻って、「あぁ、働けるんだな」と思うと、涙が止まりませんでした。本当に嬉しかった。
そこから少しずつ、気持ちも安定してきたと思います。
ゴールデンウイーク明けから、総務の仕事を始めました。長く営業をしていたので、最初は慣れない面もありましたが、自分で工夫して担当業務をこなしています。具体的な日々の工夫は、今後の連載でお伝えしていきますね。
ちなみに、「机を運ぶ仕事」はありませんでした(笑)。
仕事に復帰した翌月、「翼」のつどいに初めて参加しました。
会に参加する男性介護者の方が、「隣に座りなよ」と声をかけてくれて、お茶を飲みながら互いに自己紹介をしました。ですが、年配の人しかいないその場に、私は「老人クラブに1人で紛れ込んでしまったような感じ」がしていました。
しかし、この出会いもまた、大きな変化の始まりでした。
生21-5113,商品開発G
丹野智文さん

丹野智文さん

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